グロモフというソ連時代のプロレタリア文学の作家が残した数冊の本の初版本に、連続して通読という2条件が重なると、特殊な効果が得られることを見つけた、通称グロモフ界の、本の争奪抗争を描いたダークファンタジー。
書名は、原題の司書の方が遥かに相応しい。ダークなファンタジーとして、読後にハッキリする。
訳者の歯切れ悪い言い訳にあるように、邦題はマーケティング的に編集部で付けたもの。
ひたすら、書への帰依を訴えるシローニン読書室メンバーの胡散臭さと対を成す、覚醒後の手の平を返したような語り手の態度、信頼できない語り手問題。
初めから最後まで、語り手=主人公なのだが、今、どこで何をしているのかが、最後の謎になっている。
本について
- 本の効果は初版本に限られ、本によって異なる。
- グロモフの本そのものの内容が全く無意味・無関係なのが、作者の皮肉だ。
- 力、忍耐がそれらの一時的な賦活、は分かるが、記憶が偽のソ連時代の郷愁を植え込んで読者がそれに耽溺するのはただの麻薬的なものでしか無い訳だが、実は重要な意味があった。
- 権力の書は、そのものズバリ。
- 最後の未発見だった書が、意志の書、なのは良く考えられている。
- 但し、意思の書だけ、血統が関係するのは、ご都合主義。
- 効果を持つのがグロモフ初版本だけでなく、当時の労働行進曲などもやや賦活効果のあることが判明する。そして、これが意味するものは。
グロモフ界全体が、宗教カルトと同じ組織構造。
- 共産党のセクトとも言える、いや、セクト活動だ!
- 反発、同志的繋がり、奇跡の啓示で、のめり込む
- 但し、積極的なオルグはしない。自ら閉鎖社会を形成していて、特別な関係のものだけを引き入れている。
- 脱走者、独立を目論むものも同様、制裁を加えている。
掘り下げたい課題
- なぜ、ロシアではなく、ソ連への郷愁だと明言していて、「ソ連が無くなると生まれ故郷のウクライナは故郷ではなくなった。」なのか。
- モホバの母さん部隊は、地母神か
- 書の数は、聖典と同じか、それとも、必読レーニン選集か。
- そして主人公の属するシローニン読書室の人数は、使徒の数か。
- 裏切りが埋め込まれている組織、というのは、驚きだった。
- 話題になっている戦闘シーンの描写は言及すべきか。
- 結末は、即身成仏。神秘主義ロシアだ。といっていいか。
- 以前観たロシアSF映画で異世界の門の番人が、工場の受付でマージャンのようなゲームに興じていた4人組の老人で、そのまま、守り手としての力を付与されたというのがあって、牌を打つと、ガーンと大音響と共に、その力が壁を押し返すというのだったが、なんとなく、それを連想した。
0 件のコメント:
コメントを投稿